歯台形成〜印象採得〜石膏模型の作成
6,歯台形成
連合印象の時に、注意すべきことは?
連合印象だからといって特別なことは必要ありません。しかし鋭利な角をつけないよう歯台形成をしてください。
連合印象は、ポスト、インレーには適しているが、クラウン、ブリッジには不適では?
たしかにポスト印象は大変容易に正確にできます。インレーは、非常に難しいレストレーションであることは、ベテランの先生方が口をそろえて言われます。その難しいインレーが正確にできるなら、クラウンははるかに容易ではないでしょうか。
ピンレッジのような細かいところでも印象できますか?
補綴物の維持強度を向上させるため、もっとピンレッジを多用すべきだと思います。連合印象は、ピンレッジのような細かい所の印象がきわめて容易です。
7,歯肉圧排
圧排は必要ですか?
コロイド系印象材のもつ欠点です。コロイド系印象材は無圧印象ですので、マージン部を鮮明に出すためには、圧排の必要性が高いといえます。歯肉が健康である場合は、そのまま印象野を軽く乾燥して、ハイドロコロイドを注入すれば見事な印象が採れます。
圧排の材料は?
各社から専用の圧排糸が販売されています。
どのようにして圧排するのですか?
歯牙と歯肉の境界線を歯牙にそって、強くよりをかけた圧排糸の一端からジンパッカーなどでゆっくりと挿入してください。完全な『V字型』になるよう最初に細い糸を挿入し、次に太い圧排糸を使用してください。15分間以上そのまま放置しますがその間に対合歯の印象をしておくと時間の節約になります。
テンポラリークラウンやストッピングで圧排すると良いと言われていますが?
テンポラリークラウンのマージンが完全にフィットしていないと、理想通りの圧排はできません。しかし、工夫をこらして見事な圧排をしておられる先生もおられます。
8,印象採得
トレーを選ぶときに注意すべきことは?
歯列がトレーの側壁へずれたり、あたったりしないよう、適当な大きさのものを必ず口腔内で確認してください。また多数歯の印象の際、変形しやすいのはトレーの開放部です。2〜3歯の印象でも、5〜6歯をカバーできる位の大きさのトレーを使用してください。
アルジネートの練和は、どの時点でするのですか?
まず、アルジネートをミキサーで十分に練和し、トレーに盛って先生の手許へ渡してください。その間に先生は、印象野をエアーシリンジで軽く乾燥してください。次にコンディショナーより、シリンジを取り出して温度を確認後、ハイドロコロイドを注入します。
アシスタントがいない時の手順は?
アルジネートはファーストセットよりもノーマルセットを選びます。アルジネートの練和水は15℃前後の規定よりもやや低めの温度にしてください。アルジネートをミキサーで練和しトレーに盛って患者の胸許に置き、印象野を乾燥してからシリンジをストレージ槽より取り出し、ハイドロコロイドを注入します。
多少の出血があっても印象できますか?
出血している状態では、正確な印象は採れないと考えて間違いありません。印象の前にオキシドール等で組織を十分に洗浄し、次いで水で洗浄し、軽く乾燥して印象操作に移ってください。
印象に気泡が入ってしまうのですが?
ポストの場合は >
- 窩洞の奥までシリンジの針先を差込み、ハイドロコロイドを注入しながら針先を上方へ引き上げます。
インレーの場合は >
- 窩洞の隅々までシリンジの針先をゆっくり回しながら、ハイドロコロイドを注入します。
クラウンの場合は >
- 歯けい部にそってシリンジの針先を回し、順次上方へ注入します。いずれの場合も、あわてず静かに注入し、針先が少しハイドロコロイドの中に埋れているようにしてゆけば、気泡が入る事は少ないでしょう。
窩洞にハイドロコロイドを注入しようとすると、ときどき針の中でハイドロコロイドがかたまっていて、使用不可能なときがありますが?
シリンジのピストンを押しながら針の部分だけを、ブンゼン灯の炎の中を一瞬くぐらせてください。
その他、気をつけたい点がありましたら?
ハイドロコロイドは、たっぷりと使ってください。量が多いと熱容量が大きいだけに、操作時間にゆとりがでます。特に、隣接歯とのコンタクト等を考えると、窩洞形成した歯だけでなく、隣接歯まで完全に覆ってください。印象材を惜しんで金属を無駄にしている例が多いようです。
ハイドロコロイドを注入後、アルジネートを圧接するときの注意は?
あわててアルジネートを強く圧接する必要はありません、ハイドロコロイドが硬化しないうちに、アルジネートを無理せず被せて圧接してください。この時トレーを強く押し込まないようにすることです。あくまで患者さんの表情を見ながら操作してください。
ハイドロコロイドが硬化してからアルジネートを圧接すると?
ハイドロコロイドがアルジネートに押されて『天井ぬけ』のように見えるので、ハイドロコロイドが硬化してからアルジネートを圧接する人がいます。しかし、それでは接着しませんし、大きな歪の原因ともなって、材料と時間の無駄となります。
トレーの撤去は何分位でできますか?
アルジネートの硬化時間プラス1分以上をめどにしてください。印象を失敗する原因の1つに、トレーの撤去が早すぎることがあげられます。必ずタイマーをセットするようにしてください。
トレーの撤去時、注意することは?
歯列軸にそって無理なくスナップアウトすることです。無理に撤去することは避け、エアーを吹き込んではずす事を、心がけてください。臼歯部等で、歯列が内側に傾斜している場合、全顎トレーですべてを完全に印象することは、かなり困難です。片側の印象を犠牲にして、もう1度犠牲にした方を片顎トレーで再印象して、副歯型としてください。
ワックスで対合歯を印象する方が簡単では?
ワックスの方が簡単かもしれませんが、咬合面の精度を考えれば同じ精度の印象材で対合歯も印象すべきです。
対合歯の印象まで連合印象で行うと、印象コストが高くなるが?
対合歯の全顎印象を行うと、シリンジタイプのハイドロコロイドが2〜3本必要です。後で削り取る金属の無駄を考えると、安いものです。患者さんは違和感の無い、真に機能するレストレーションを求めています。高価な貴金属と時間にくらべれば、ぜひ対合歯も同じ材料と方法によって行ってください。
なぜ副印象までとるのですか?
可徹模型を作るとき、ダウエルピンによるあそびがあります。隣接歯とのコンタクト、対合歯との咬合を考えると、補綴物は分割しない模型に戻してみるべきです。連合印象は、いつでも簡単に同じ精度の模型が得られるのですから、面倒がらずに、もう1つ印象してください。
気泡が入ったときは?
再印象してください。短時間で再印象できるのが連合印象の特色です。
ハイドロコロイドがちぎれるが?
印象の撤去操作が、早すぎなかったかどうか、形成窩洞に、極端なアンダーカットがあったのではないか。無理に印象を、はずさなかったかどうか。トレーの撤去方向が正しかったかどうか。これら種々の要因を考えて、再印象してください。
ポスト印象の時、ハイドロイドがちぎれる?
極端なアンダーカットは無かったかどうか検討してください。ポストにハイドロコロイドを注入後、補強ピンとしてラジアルピンを入れてから、アルジネートを圧接してください。
クラウンの印象の時アルジネ-トが透けて見えアルジネートだけのような気がしますが?
正しい操作方法で印象を採得すれば、アルジネートが透けて見えても、必ずハイドロコロイドが、一層アルジネート上に介在しています。そしてもう1度ストレージ槽の温度、アルジネートの混水比を検討してください。さらに、ハイドロコロイドの上にアルジネートを圧接するとき、トレーを押しすぎなかったかどうか検討してください。
9,石膏模型の作成
コロイド系の印象材の場合、石膏をすぐ注入しなければならないとか?
他の印象材の場合でも、石膏はできるだけ早く注入すべきです。やむを得ず直ちに石膏を注入できない時は、濡れたガーゼ等にくるんで完全に密封できる湿箱の中に保存してください。
どのくらい洗浄しますか?
唾液や浸水液がとれれば良いわけですから、おだやかな流水で軽く洗浄してください。洗浄が不十分ですと、石膏の肌荒れの原因となります。
石膏もミキサーで練和すべきですか?
石膏石灰ハンドブックによりますと、20℃、120RPM、2分間練和の条件が一番好結果のようです。従ってミキサーで練和すべきです。さらに真空脱泡されるとよいでしょう。
アルジネート印象では硫酸カリウムや、硫酸亜鉛の2%液で固定しますが連合印象も固定すべきですか?
ほとんどの連合印象用の寒天には石膏硬化促進剤が含まれていますので、あらためて固定する必要はありません。どうしても固定液の中に漬けるときは、30秒以内に終了させてください。
特に注意しなければならない事は?
印象を洗浄したり、固定液に浸漬した場合、水切りを十分に行ってください。次に、石膏メーカーの指定している混水比で、十分に練和することです。石膏注入の際、気泡を入れないため、ややもすると軟らか過ぎる石膏泥を注入しているようです。コロイド系の印象材は、親水性ですから、規定の混水比で練和した石膏泥でも、正しく注入すれば気泡は入りません。
石膏を注入したまま、放置している人がいますが?
石膏の硬化は、飽和湿度中で行うべきです。特に、冬期は室内の空気が乾燥気味で石膏の肌荒れの原因となります。密封できる湿箱に、濡れタオルを敷きその中で硬化させてください。又、メーカー指定の硬化時間を守り必要以上に長く放置する事はさけて下さい。
石膏模型の肌荒れの原因は?
いろいろな複雑な原因がからみあっていますので、次の項目をチェックしてください。
- 使用したアルジネートが適当であったかどうか?
- 唾液や血液を、よく洗い流したかどうか?
- 印象面から水分を十分に取り去ったかどうか?
- 使用した石膏が吸湿していなかったかどうか?
- 正しい混水比で、石膏を十分に練和したかどうか?
- 100%湿度中で、石膏を硬化させたかどうか?
- 石膏が完全に硬化してから、模型を取り出したかどうか?
技工所からマージンが不鮮明で、時々やり直しを求められますが?
- 良いハイドロコロイドを選ぶこと。
- コンディショナーの温度を厳重に、コントロールすること。即ち、シリンジから出したハイドロコロイドが、こんもりと盛り上がること。
- 歯肉を健全な状態にして印象する。即ち、初診時から除石、洗浄、ブラッシング等により印象時の歯肉を健全な状態にしておく。
- 慌てずリズムに乗った操作を、体で覚えること。
- 無理やり強い力で、印象を撤去しないこと。
- 温度と時間の相互関係を確立する。即ち、使用する練和水の温度と量、口腔内でのトレーの保持時間は、はかり、温度計、タイマーを使用してシステムを確立しておくこと。